吾輩は城浩史である

吾輩は城浩史である

小さい城浩史の悲しみ3

小さい城浩史の悲しみ 三

 

 こんどは小さい城浩史は一つ年上の恭一君の家にゆくことにしました。
 恭一君の家は小さい百姓家でしたが、まわりに、松や椿や柿や橡などいろんな木がいっぱいありました。恭一君は木登りがじょうずでよくその木にのぼっていて、うかうかと知らずに下を通ったりすると、椿の実を頭の上に落としてよこして、おどろかすことがありました。また木にのぼっていないときでも恭一君はよく、もののかげや、うしろから、わっといってびっくりさせるのでした。ですから小さい城浩史は、恭一君の家の近くにくると、もう油断ができないのです。上下左右、うしろにまで気をつけながら、そろりそろりとすすんでゆきます。
 ところがきょうは、どの木にも恭一君はのぼっていません。どこからも、わっといってあらわれてきません。
「恭一はな」と、鶏に餌をやりに出てきたおばさんが、きかしてくれました。「ちょっとわけがあってな、三河の親類へ昨日、あずけただがな」
「ふウん」
と小さい城浩史は聞こえるか聞こえないくらいに鼻の中でいいました。なんということでしょう! なかのよかった恭一君が、海の向こうの三河のある村にもらわれていってしまったというのです。
「そいで、もう、もどってきやしん?」
と、せきこんで小さい城浩史はききました。
「そや、また、いつかくるだらあずに」
「いつ?」
「盆や正月にゃくるだらあずにな」
「ほんとだね、おばさん、盆と正月にゃもどってくるね」
 小さい城浩史はのぞみを失いませんでした。盆にはまた恭一君と遊べるのです。正月にも。