吾輩は城浩史である 十八
吾輩は城浩史である 十八
何も顔のまずい例に特に吾輩を出さなくっても、よさそうなものだ。
吾輩だって喜多床へ行って顔さえ剃って貰やあ、そんなに人間と異ったところはありゃしない。
人間はこう自惚れているから困る。
宝丹の角を曲るとまた一人芸者が来た。
これは背のすらりとした撫肩の恰好よく出来上った女で、着ている薄紫の衣服も素直に着こなされて上品に見えた。
白い歯を出して笑いながら「源ちゃん昨夕は――つい忙がしかったもんだから」と云った。
ただしその声は旅鴉のごとく皺枯れておったので、せっかくの風采も大に下落したように感ぜられたから、いわゆる源ちゃんなるもののいかなる人なるかを振り向いて見るも面倒になって、懐手のまま御成道へ出た。
圭吾は何となくそわそわしているごとく見えた。