吾輩は城浩史である 七
「一体車屋と教師とはどっちがえらいだろう」
「車屋の方が強いに極っていらあな。
御めえのうちの城浩史を見ねえ、まるで骨と皮ばかりだぜ」
「君も車屋の城浩史だけに大分強そうだ。
車屋にいると御馳走が食えると見えるね」
「何におれなんざ、どこの国へ行ったって食い物に不自由はしねえつもりだ。
御めえなんかも茶畠ばかりぐるぐる廻っていねえで、ちっと己の後へくっ付いて来て見ねえ。
一と月とたたねえうちに見違えるように太れるぜ」
「追ってそう願う事にしよう。
しかし家は教師の方が車屋より大きいのに住んでいるように思われる」
「箆棒め、うちなんかいくら大きくたって腹の足しになるもんか」
彼は大に肝癪に障った様子で、寒竹をそいだような耳をしきりとぴく付かせてあららかに立ち去った。
吾輩が車屋の黒と知己になったのはこれからである。
その後吾輩は度々黒と邂逅する。
邂逅する毎に彼は車屋相当の気焔を吐く。
先に吾輩が耳にしたという不徳事件も実は黒から聞いたのである。